終末糖化産物(AGEs)を撃退|体のコゲを防ぎ若さを保つ糖化対策【東京情報大学・嵜山陽二郎博士のヘルスケア講座】

終末糖化産物(AGEs)とは、タンパク質と余分な糖が結びつく「糖化」によって生成される強力な老化物質の総称です。人の体を作るタンパク質が、過剰な糖と体温によって結びつき、本来の機能を失って劣化するこの現象は、しばしば「体のコゲ」と例えられます。AGEsは体内で作られるだけでなく、高温調理された食品からも摂取され、一度蓄積すると分解・排出されにくいという厄介な性質を持っています。蓄積されたAGEsは全身の細胞や組織に炎症を引き起こし、肌のシワやたるみといった美容面の老化のみならず、動脈硬化、糖尿病合併症、骨粗鬆症、認知症など多くの疾患の引き金となります。そのため、血糖値を急上昇させない食生活や、揚げ物よりも「煮る・蒸す」調理法を選ぶといった対策が、健康寿命を延ばす鍵となります。
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終末糖化産物(AGEs)の基礎知識とそのメカニズム
終末糖化産物(Advanced Glycation End Products)、通称AGEs(エージーイー)とは、タンパク質と糖が加熱されて結合する「糖化反応(メイラード反応)」によって生成される物質の総称であり、現代の医学やアンチエイジング分野において「老化の最大の原因物質」として極めて重要視されています。人間の体は約60兆個の細胞から成り立っており、その主成分は水分を除けばタンパク質ですが、このタンパク質が食事などで摂取した余分な糖分と体温による熱によって結びつくことで、タンパク質が本来の構造を変性させ、褐色化し、硬く脆い状態へと劣化してしまいます。これをわかりやすく例えるならば、ホットケーキを焼く過程に似ています。小麦粉(糖)と卵や牛乳(タンパク質)を混ぜて加熱すると、こんがりと褐色に焼け(糖化)、香ばしく硬くなりますが、これと同じ現象が人間の体温という緩やかな熱によって、長い時間をかけて体内で進行しているのです。一度生成されたAGEsは非常に安定した構造を持っているため、体内から分解・排泄されるのが極めて困難であり、加齢とともに体内に蓄積され続けるという厄介な性質を持っています。この蓄積されたAGEsは、細胞の機能を低下させるだけでなく、RAGE(レージ)と呼ばれる受容体と結合することで細胞内に酸化ストレスや炎症シグナルを引き起こし、全身のあらゆる組織を内側から破壊していく時限爆弾のような存在と言えます。
AGEsが引き起こす美容面への深刻な影響
肌の老化と糖化の密接な関係
美容の観点から見た場合、AGEsの蓄積は「見た目の老化」に直結する最も避けたい現象の一つです。肌の真皮層には、肌のハリや弾力を支えるコラーゲン繊維とエラスチン繊維が張り巡らされていますが、これらはタンパク質でできているため、糖化の格好の標的となります。若々しい肌のコラーゲンはバネのような弾力性を持っていますが、AGEsが蓄積すると、コラーゲン繊維同士を無秩序に架橋(クロスリンク)してしまい、まるで接着剤で固めたかのように硬く柔軟性のない状態に変えてしまいます。その結果、肌は本来の弾力を失い、重力に逆らえなくなってたるみが生じ、表情の動きに合わせてできた折り目が戻らなくなって深いシワとして定着します。さらに、AGEsそのものが褐色であるため、皮膚に蓄積すると肌全体が黄色くくすんで見える「黄ぐすみ」の原因となり、透明感を著しく損ないます。加えて、AGEsはメラノサイトを刺激してシミの原因となるメラニンの生成を促進させたり、皮膚のターンオーバーを遅らせて古い角質を滞留させたりするなど、肌老化の全方位的な元凶として機能してしまうのです。
髪の毛や爪への影響
糖化の影響は顔の肌だけに留まらず、同じくタンパク質(ケラチン)を主成分とする髪の毛や爪にも顕著に現れます。頭皮が糖化して血流が悪くなると、毛根に十分な栄養が届かなくなり、髪のコシやハリが失われ、抜け毛や薄毛の原因となります。また、髪の毛の内部にあるタンパク質が糖化することで、髪自体が硬くゴワゴワとした質感になり、ツヤが失われ、切れ毛や枝毛が増えるといった現象も引き起こされます。同様に、爪も糖化の影響を受けると、透明感が失われて黄色く変色したり、縦線が入ったり、割れやすくなるといった老化現象が見られるようになります。これらはすべて、体内で進行している糖化反応が、目に見える形となって表層に現れた警告サインであると捉える必要があります。
全身の健康を蝕むAGEsの病理的作用
血管の老化と動脈硬化のリスク
AGEsがもたらす健康被害の中で最も生命に関わるリスクの一つが、血管に対するダメージです。血管の内壁を構成する内皮細胞や、血管の弾力性を保つコラーゲンが糖化されると、血管は柔軟性を失って硬く脆くなり、いわゆる動脈硬化が進行します。さらに、血液中にAGEsが増加すると、血管壁に炎症を引き起こし、コレステロールなどが沈着しやすい環境を作り出します。これにより血管内腔が狭くなり、血流が悪化するだけでなく、血栓ができやすくなるため、高血圧、心筋梗塞、脳梗塞といった致死的な心血管疾患のリスクが飛躍的に高まります。糖尿病の患者において、合併症として網膜症や腎症、神経障害が多く見られるのは、高血糖状態が続くことで体内のAGEs生成が爆発的に加速し、全身の微細な血管がボロボロに破壊されてしまうことが主な原因です。つまり、血管年齢を若く保つためには、血圧や脂質の管理と同様に、いかにAGEsの生成と蓄積を抑えるかが極めて重要な鍵を握っているのです。
骨質の低下と骨粗鬆症
骨の健康というとカルシウムばかりが注目されがちですが、実は骨の体積の約50%、重さの約20%はコラーゲン繊維というタンパク質で構成されています。この骨のコラーゲンは、鉄筋コンクリートの建物で言えば鉄筋の役割を果たしており、骨にしなやかさと粘り強さを与えています。しかし、骨のコラーゲンが糖化してAGEs化すると、鉄筋が錆びて脆くなるように、骨の質(骨質)が著しく低下します。これを「骨質の劣化」と呼びます。カルシウム密度(骨密度)が正常であっても、骨質が悪化していると、わずかな衝撃で骨折しやすくなるのです。特に、加齢に伴う骨粗鬆症の一部は、このAGEsによる骨コラーゲンの劣化が原因であることが近年の研究で明らかになっており、骨折を防ぎ寝たきりを予防するためにも、糖化対策は無視できない要素となっています。
脳機能への影響と認知症
近年の研究において、AGEsは脳の老化や認知症の発症にも深く関与していることが示唆されています。脳内のタンパク質が糖化されると、神経細胞の中に老廃物が蓄積しやすくなり、神経細胞死を引き起こす可能性があります。特にアルツハイマー型認知症の患者の脳内には、健常者と比較して大量のAGEsが蓄積していることが確認されており、AGEsがアミロイドベータという異常タンパク質の凝集を促進し、老人斑の形成を早める毒性を持つことが分かっています。また、脳血管の糖化による血流不全も、血管性認知症のリスク因子となります。脳はブドウ糖を主なエネルギー源とする臓器ですが、その代謝過程で発生する過剰な糖化反応は、記憶力や判断力の低下を招き、脳の寿命を縮める要因となり得るのです。
AGEsの由来:内因性と外因性
体内での生成プロセス(内因性AGEs)
AGEsには大きく分けて二つの由来があります。一つは「内因性」と呼ばれるもので、自分自身の体内で作られるAGEsです。これは主に、食後の高血糖状態が続くことによって発生します。血液中に溢れた過剰なブドウ糖が、血管や組織のタンパク質と接触し、体温によって温められることで糖化反応が進みます。特に、急激に血糖値が上昇する「血糖値スパイク」が頻繁に起こる人や、慢性的な高血糖状態にある糖尿病予備軍の人は、健常な人に比べて圧倒的なスピードで体内のAGEsが生成されます。一度の食事で急激に作られるわけではなく、日々の食生活の積み重ねによって徐々に蓄積されていくため、無自覚のうちに体内年齢が実年齢を追い越してしまうことになります。
食事からの摂取(外因性AGEs)
もう一つの由来は「外因性」と呼ばれるもので、食品として口から摂取するAGEsです。実は、食品に含まれるAGEsの約10%程度が体内に吸収され、そのうちの一部が排泄されずに体内に蓄積されると考えられています。食品中のAGEs量は、食材そのものよりも「調理法」によって劇的に変化します。基本原則として、高温で長時間加熱するほどAGEsは爆発的に増加します。例えば、同じ鶏肉料理でも、「蒸し鶏」や「茹で鶏」に比べて、高温の油で揚げる「唐揚げ」や、直火で焼く「焼き鳥」は、AGEs含有量が数倍から10倍以上に跳ね上がります。こんがりとした焼き目や揚げ色は食欲をそそる要素ですが、その褐色部分こそがAGEsの塊であると言えます。また、加工食品、スナック菓子、清涼飲料水に含まれる果糖ブドウ糖液糖などは、通常のブドウ糖よりも糖化させる力が強いため、これらを多量に摂取することも外因性AGEsを増やす大きな要因となります。
効果的なAGEs対策と生活習慣の改善
調理法の工夫による摂取抑制
AGEsの蓄積を防ぐための最も即効性のある対策は、調理法の見直しです。AGEsの発生量は「生 < 蒸す・茹でる < 煮る < 炒める < 焼く < 揚げる」の順で高くなります。したがって、揚げ物や焼き物の頻度を減らし、水を使って低温で調理する「煮る」「蒸す」料理を中心にするだけで、食事からのAGEs摂取量を大幅に減らすことができます。もし揚げ物や焼き物を食べる場合は、AGEsの吸収を穏やかにするために、酢やレモン、クエン酸を含む食材を一緒に摂取したり、調理前の下ごしらえで肉を酢に漬け込んだりすることで、AGEsの生成をある程度抑制できることが分かっています。また、電子レンジによる再加熱も、食品中のAGEsを増やす傾向があるため、過度な使用は避けることが望ましいでしょう。
血糖値をコントロールする食事術
内因性AGEsの生成を抑えるためには、食後の血糖値を急激に上げない工夫が不可欠です。これには「ベジタブルファースト」と呼ばれる食べ順が有効です。食事の最初に食物繊維が豊富な野菜、海藻、キノコ類を食べ、次にタンパク質、最後に炭水化物(ご飯やパン)を食べることで、糖の吸収速度を緩やかにし、食後高血糖を防ぐことができます。また、白米や白いパンなどの精製された炭水化物よりも、玄米や全粒粉パンなどの低GI食品(グリセミック・インデックスが低い食品)を選ぶことも重要です。さらに、食後すぐに軽い運動(ウォーキングや家事など)を行うことで、血液中のブドウ糖が筋肉でエネルギーとして消費され、タンパク質と結びつく前に処理することができるため、糖化予防に極めて高い効果を発揮します。
抗糖化成分の摂取と生活習慣
食事や運動に加えて、抗糖化作用を持つ成分を積極的に摂取することも有効な戦略です。例えば、カモミール、ドクダミ、セイヨウサンザシ、ブドウ葉などのハーブには、AGEsの生成を阻害する作用があることが報告されています。また、ビタミンB1やB6は糖の代謝を助け、α-リポ酸やカルノシンといった成分も抗糖化をサポートします。さらに、緑茶に含まれるカテキンや、野菜・果物のポリフェノールも、酸化と糖化の両方を防ぐ助けとなります。生活習慣の面では、十分な睡眠をとることが成長ホルモンの分泌を促し、身体の修復機能を高めるために不可欠です。また、ストレスは血糖値を上昇させるホルモン(コルチゾール)の分泌を促すため、適切なストレス管理も間接的ながら重要な糖化対策となります。紫外線も皮膚でのAGEs生成を促進させる要因となるため、年間を通じたUVケアも、肌の糖化を防ぐためには欠かせません。これら多角的なアプローチを継続することで、AGEsの脅威から身を守り、健康で若々しい心身を維持することが可能となるのです。







